わたしの生活独語記

日常で感じたことをつらつらと書いています

あなたは時間旅行をしたことがありますか?

9月も終わりにさしかかり、夏の猛る暑さもいつの間にか陰り

肌を撫でる心地よい風が少し冷えてきたこの頃

 

同じ時期の数年前、私は時間旅行をした

不思議な時間だった

宙に浮いたような

不思議な時間だった

 

それも自発的にしたのではなく受動的に、私は時間の海を行き来した。

 

 

 

 

 

8年ほど前のこの時期に近いころ、私は大学生でマジックのサークルを立ち上げ

少ないながらも私含めた四人で楽しく活動していた

 

活動と言っても部室で4人、他愛もない会話をしながらただカードを触っているだけの数時間を週一回過ごしていた。

ただ、それがとても楽しかった。

それだけで良かった。

 

そんな頃、通っている大学の事務から私宛に電話があった。

なんでも、大学の近くにある区民センターが10周年ということで

そちらを運営されてる方から大学へ連絡があったそうだ。

直接区民センターの人とやりとりしてくれとの事だったので、電話で連絡を取り

区民センターで実際に会って打ち合わせする運びになった。

 

実際に訪れてみると、それはまあ小さい建物で

申し訳程度の事務室らしき部屋が入り口にあり60代のおじさんと

70も越えた感じの物腰柔らかなおばあさんがそこにいた。

 

私は挨拶を済ませ、打ち合わせに入った。

話が進むにつれ、見る人が40~50人がほど入る事が分かり

このサイズで効果的に見せるにはどうしようかとあれこれ考えながら担当者と

話していると、私はお客さんの年齢層が知りたくなり

 

「すいません、見に来られる方の年齢層はどのくらいか分かりますか?」

 

「あぁ~、まあ大体60歳から80歳くらいかな~」

 

んー。これもまた困った。

こりゃいろいろやったところで中々反応が薄いだろうなあ。

 

なんて事を考えてたら

 

「あ、いや若い人も少ないけど来るよ。50代くらいかなあ」

 

 

 

いや、ふざけんなゴリゴリの中年オーバーやんけ

 

でも日本の年齢グラフ的には50代はもう若いに入ってしまうのかなあ

とか考えていると気持ちが沈み

後半は担当者が何言ってるか正直分からず、意識が混濁していきました。

 

 

 

そんなこんなで当日になり、意識が混濁したせいか結局何をやるか決めることはせず

部室に会ったカードやらボトルやらシルクやら手当たり次第、鞄に突っ込んで

区民センターへ向かった。

 

するとすでに人は大勢入っており、そそくさと控え室へ

 

控え室でも何やるか決めることは無くただ、だべっていた

私たちは年齢層に嫌気がさしていたのかもしれない

 

あれやこれやと話しているとあっという間に出番へ

 

気持ちがあがらないまま、部員の一人が始め出すと

 

 

 

 

 

どうだろう

 

 

 

 

嘘みたいにウケが良い

反応が良い

 

というかリアクションが若い

 

 

声が上がる

 

会場が沸く

 

 

演者も乗ってくる

 

 

あっという間だった

 

パフォーマンスが終わると楽しい気持ちだけが残っていた

やる前の不安や杞憂の残滓にも気づかないほどに

 

 

出番を終えた私たちは荷物をまとめ、帰ろうとしていた

 

 そこへ60代くらいの婆さんが近づいてきて

「今からみんなでお茶を飲んでゆっくりするんだけど、良かったらどう?」

 

と声をかけてくれた。

 

 私たちは快諾して席に着いた。

 

 

席に着くと、煎茶をとお茶菓子を出してくれて

婆さん二人が私たちの席の向かいに座った。

 

お茶のすする音しか聞こえないこの席で

婆さんが話しかけてくる

 

婆「みんな今日はかっこよかったわ~、本当にありがとう」

 

私「いえ、楽しんで頂いたようで私たちもうれしいです」

 

 婆「それはそうと、私たちいくつくらいやと思う?」

 

私「んあ?何言い出すねん。だまって茶飲ませろや」

といいかけたのをやめて

 

我々「んーまあ60代くらいですかねぇ」

 

婆「もう70も後半よ」

 

 

これはおでれえた。

 

この時、マジックへのリアクションが若い理由も合点が良った。

ここは学生の街でもあるし、他の地域より若い人が多い場所でもあるから

感化されて感性も若いのかなあ

と考えていると

 

婆「あなた達にはマジックの先生というか師匠みたいなのはいるの?」

 

私「いえ、僕たち4人だけで仲良くやっているだけです」

 

婆「あらーそれはすごいわね。それであれだけ不思議なのはすごいわね~」

 

私「ちっす」

 

そろそろ、やりとりがしんどくなってきた。

 

婆「それはそうとみんな勉強はちゃんとしてるの?」

 

私「みんなそれぞれ違う学部なんですがちゃんと頑張ってます」

 

婆「それなら大丈夫ね。マジックもいっぱい練習してね」

 

よし。ある程度時間も経ったし帰ろうかなと我々、目配せしていたその刹那

その時であった

 

 

 

 

 

 

 

婆「あなた達にはマジックの先生というか師匠みたいなのはいるの?」

 

 

 

 

 

 

時が止まった

 

 

聞かれたその瞬間、私たちは眉をしかめ閉口した

 

 

何かがおかしい

 

 

これは少し前に聞いた文言で

 

確実に一度、答えた

 

 

私たちは試されているのか

 

 

婆さん達は悠揚とした佇まいで私たちを見ている

 

色とりどりの思いが胸を巡った

 

わたしたちは気づいた

 

少し冷えたあの秋の日に

 

私たちはすこしだけ時間旅行をしたのだ

 

 

聞かれた質問に答える力は私たちに残されてはいなかった

 

 

 

おろおろと意識も不安定なまま、そこを後にした

 

 

 

 

 

 

私が書けるのはここまでです